録ミュージアム

録ミュージアム

栃木県小山市に小さな私設美術館があります。

名称は「録ミュージアム(ロクミュージアム)」。

2010年に開館した現代建築です。

これまでにこのブログを読んでくださっている読者の方は疑問に思うかもしれません。

なぜなら私は、これまで一度たりとも「現代建築」について書いてこなかったからです。

このブログでは、これまで明治・大正期ごろに建てられた様々な建築物に目を向けて、それらの建築物そのものとしての価値や、社会に与えた影響、建築に関わった人々について調べてきました。

しかし、その中で感じたことは、「歴史的に古いから良い」ということではなく、その建築物がなぜ建てられたのか、どんな人々がどのように活用したのか、といったことにこそ価値があるということです。

要は、建物自体にも価値はありますが・・・、それ以上に、そこに関わる人に価値があるのです。

ということであれば、間違いなく現代建築の中にも、明治・大正期のいわゆる歴史的建築物にも負けない価値を持つ建築物は多々あるはずです。

というよりも、全ての建築物には誰かの思惑や目的が絡んでいるので、一概に「これは良い」「これは悪い」などと断定することはできません。

人それぞれ趣味嗜好は違いますから、誰かが「この建築物が好き」と思った建物も、他の誰かは「何この建物・・」といった感想が出てしまうものです。

例えば東京スカイツリーを下から見てみると、なんだかねじ曲がっていますよね。

なぜこんな構造であるか知らない人からすれば、「こんな高い建物が曲がってるの危なくない?」と言われそうです。

実際には、ねじれていることで、外からの力(風の影響や地震の影響)を逃がしやすく、またツリー内部に隠された耐震構造によって非常に強い電波塔となっているわけです。

興味のある方は、一度「東京スカイツリー 構造」と検索してみることをお勧めします。

非常に複雑ですが、強い構造だということがわかるかと思います。

スカイツリー

つまり、結局のところ「建築物の価値」は見る人によって違い、それはたいていの場合、単純な「好き嫌い」に左右されています。

また、「この建物嫌い」と思っていたとしても、その建物を建てた人のことを調べたりしているうちに、建物を好きになってしまうこともあります。

ということで、前置きが長くなりましたが、今回は、これまであまり調べてこなかった「現代建築」について書いてみようと思います。

(白状すると・・実際、筆者の私がこれまで明治・大正期の建築物を書いていたのは、単純にその時代の建物が好きだからです。・・大正ロマンとでも言うのでしょうか。雰囲気的に好きなのです。ごめんなさい。)

大正ロマン風建築(長楽館)

それでは、栃木県小山市にある『録ミュージアム』について解説していこうと思います。

録ミュージアム

この録ミュージアムがある場所は、いわゆる田舎のロードサイドです。

ロードサイドとは、大都市ではなく地方や郊外地域の幹線道路沿いのことを指します。

田舎の国道沿いにある商業施設やガソリンスタンド、ファミリーレストランやファーストフード店をイメージしてもらえればと思います。

ロードサイド例

こういった施設を総称して「ロードサイドショップ」と呼ぶのですが、録ミュージアムは小山市のロードサイドショップの並びにあります。

一般的に、美術館や博物館などがこういったロードサイドに作られることはありません。

しかし、この建物は「私設」の美術館です。

つまり、一個人が2010年に建てた美術館なのです。

だからこそ、国が博物館を建てる際のような土地選びではなく、ロードサイドを選んでいるのです。

この土地選びも、この建物を語る上でかなり重要なポイントと言えます。

このことについては後述いたします。

さて、今回この建物を調べてみようと思った理由なのですが、大きく分けて2つあります。

1つは上述したように、なぜか郊外のロードサイドショップの並びに建っていること。

もう1つは、「ミュージアムの設計に美しい自然が利用されており、しかもその自然自体が人工的に計算しつくされた自然である」ということです。

と言ってもなんのことかよくわからないと思いますので、まずはこれからざっくりと歴史的な建築のトレンドについて解説します。

あくまでもざっくりとです。

明治・大正期に建てられた有名な建築物に多いのは、やはり当時海外からもたらされた技術による西洋風建築です。

この時点では、日本は日本の建築、アメリカはアメリカの建築といったように、国ごとに建築史を分けることができました。

西洋風になったとはいえ、あくまでも日本の中で進化した西洋風、いわゆる擬洋風が多かったのです。

しかしその後、第二次世界大戦を経て、世界との交通が容易になるにつれ、建築界でも「世界としてのトレンド」を持つようになりました。

そしてそれを象徴したのが、オリンピックや万国博覧会といった世界規模のイベントによる世界レベルの技術交換です。

東京オリンピック

万国博覧会

1960年代、日本は経済成長の時期に当たりますが、このころ建てられた建築物は、世界的に見ても「経済発展」を重要視した建物が多いです。

要するに、「機能」に最も重点をおいたデザインであることが多いのです。

日本で多かったのは「電波塔」の類です。

東京タワー

それが1970年代になると、世界中で「奇抜さ」「見た目のインパクトや美しさ」に重点を置いた建築物が目立つようになります。

万国博覧会がそれに拍車をかけています。

筆者の私は昔シドニーに住んでいたことがあるので「オペラハウス」は何度も目にしているのですが、この建物も1970年代に建てられています。

そして、オペラハウスについて思うことは2つです。

1.たぶんこのオペラハウスとハーバーブリッジがなければ、シドニーはシドニーとして繁栄することはなく、2000年のシドニーオリンピックもなかっただろう。(要はそれぐらい、シドニーの象徴として必要不可欠な存在の建物ということです。)

2.でもあの形状・・メンテナンスや掃除、すごくめんどくさそうだし維持費かかってるだろうな・・・(正直、屋根の頂点に行って掃除する人がいるとしたら怖いだろうなと思います。)

つまりですね、1970年代に建てられた建物は「象徴」としての建物が多いということです。

もちろん、東京タワーのようにただの電波塔でも象徴的な建物にはなり得ますが。

オペラハウス

さらに1980年代に入ると、「商業施設」「集合住宅」が多く建設されるようになります。

人々の生活や経済のための建築物です。

こういった目的のため、やはりこの年代の建物も、1960年代のように「機能」に特化したものが多いです。

幕張メッセ

そして1990年代、バブルがはじけた後の時代はどんな建築物が多いのかというと、美術館や空港など、分野や利用目的の異なる建物をそれぞれ建てるようになります。

「個性」という言葉が叫ばれ始めるのもこのころなので、もはや「建築」としてのトレンドというよりは「分野ごとのトレンド」となります。

京都駅

1990年代までのところで人工物を作りすぎたことに疲弊したのか、人々はやがて「自然」との調和といったことを考えるようになります。

その証拠に、2000年代になってから建てられた建物は、その建物がある場所の景観などを考慮した上で、バランスを崩さないように建てられる傾向があります。

金沢21世紀美術館

2020年になった今では、その考え方はさらに強くなります。

自然のみならず、地域ごとの伝統文化なども考えた上での建築が目立ちます。

また、自然や伝統との調和をコンセプトとした建物や洗練された建物が増える一方で、物質を減らす動きも見えます。

シンプルライフやタイニーハウスといった言葉があるように、ものを極力減らすといった考え方をする人が増えてきています。

タイニーハウス

さて、このような一連の建築物のトレンドがあった中で、2010年に建てられた『録ミュージアム』はどのような建物なのでしょうか。

録ミュージアムの外観などを見てみると、一見、そこにあった自然の木々に調和する形で建てられているように見えます。

外観は森の一部を切り取ったような感覚にさえ陥るほど超自然で、その自然に合わせるかのように天井や壁が独特に曲線を描いています。

録ミュージアム 外観

しかしこの木々は、この建物を作るために予め角度などを調整されて植樹されたものなのです。

つまり、設計の段階でまず「植樹」を行い、さらには伸びた枝ふりさえも計測して高さなどを調整し、人工的な自然を作り出します。

そこに、今後伸びてくるであろう枝の邪魔をしないように建物を建てていったわけです。

通常の建築とは全く異なるプロセスを経て設計されていることがよくわかると思います。

しかしながら、同時に自然との共生や洗練された価値観が見え隠れしています。

特に内観では通路などがねじれ曲がっていたり、角度がついていたりと、場所によっては屈んだりしなければなりません。

外観も内観も非常に洗練されたデザインとなっており、そこが地方のロードサイドの一角とは全く思えないほどで、小さい美術館ながら飽きのこない設計となっています。

録ミュージアム 内観1

録ミュージアム 内観2

録ミュージアム 内観3

録ミュージアム 内観4

冒頭で、この美術館は私設の建物と述べました。

施主は塚田 享子さん。

なぜ彼女がこのような美術館を造ろうと思ったのか、きっかけは彼女の父親にあります。

彼女の父親は塚田 録さんという方で、芸術を愛し、小山市にまつわる芸術品を多数所持していました。

そして彼は、いつかその芸術品を小山市の人々に見てもらえるような、人々が気軽に集まれる場所として、美術館を造ろうと考えていました。

しかし、その志半ばにして亡くなられてしまいます。

そんな彼の遺した志を娘である享子さんが引き継ぎ、才能溢れる若手建築家、中村拓志さんに設計を依頼して、この森の中のミュージアムが完成しました。

中村拓志さんは1974年生まれで、現在はNAP建築設計事務所主宰です。

若いころは隈研吾氏に師事し、建築において数々の賞を受賞されており、現在も最前線で建築活動を進めています。

中村拓志さん

彼の主な作品は下記のようなものです。

・Lanvin Boutique Ginza-

・Edge Lotus-

・lotus beauty salon

・ギャラリー桜の木

・Dancing trees,Singing birds-

・HOUSE C 地層の家

・東急プラザ表参道原宿

・Optical Glass House

・Sayama Lakeside Cemetery Community Hall

・Ribbon Chapel

・Sayama Forest Chapel 狭山の森 礼拝堂

・Kamikatz Public House

・ベラビスタスパ&マリーナ尾道 エレテギア

ベラビスタスパ&マリーナ尾道

録ミュージアムの土地選びについてですが、小山市の芸術品を今現在小山市で生きる人々に見てほしい、人々が集まれる場所にしたいという録さんの想いを遂げるために、あえて、人々の生活の中心であるロードサイドという立地を選択しています。

一歩この土地に足を踏み込めば、外の世界とは全く違う洗練された雰囲気に包まれます。

このように、新進気鋭の建築家と父の想いを実現させたい娘さんが創り出した、今までにはない全く新しい美術館こそが、この「録ミュージアム」なのです。

録ミュージアム内には、おしゃれなカフェもあります。

日常の中に創り出された非日常的な空間で、優雅なひと時を過ごすのも良いのではないでしょうか。

ちなみに、入館料は500円かかるのですが、カフェの利用をする場合は入館料が無料になります。

月曜・日曜・年末年始はお休みなのでご注意ください。

録ミュージアム カフェ

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