モード学園コクーンタワー
日本の中心地、東京新宿。
この地には高層ビルが建ち並び、オフィスやマンションとして利用されています。
新宿
そんな中に、高層ビルとしても非常に珍しい形のビルがそびえたっています。
それが『モード学園コクーンタワー(通称「コクーンタワー」)』です。
新宿のど真ん中にあるので、見たことがある方も多いのではないでしょうか?
モード学園コクーンタワー
この建物は2008年、証券化され売却された朝日生命保険本社跡地に建てられた校舎ビルです。
プロジェクトにあたっては、学園からの注文である「四角ではないものを」に基づいた国際コンペが行われました。
コンペには、建築家や建設会社など約50社が参加。
150件を超す提案の中から、丹下都市建築設計の計画が採用されました。
このビルは学校建築で、現在も学校として利用されていますので、基本的に一般の方の出入りはできません。
ただし、1階、2階のカフェとコンビニ、地下階の本屋には入れます。
とはいえ、実は一般の方でもこの建物内に入る方法があります。
それについてはこの記事の最後で紹介します。
また、内部を見られなくとも、実際この建物は外観だけでも見るに値する建物だと思います。
新宿方面にお越しの際は、是非足を運んでみてください。
特徴的な建物なので、すぐに見つかりますよ。
そんなコクーンタワーの設計に関わった丹下建築設計の設計部・設計統括の中山氏の談話をご紹介しましょう。
モード学園の学長はとても情熱のある方で、「学校は夢を育む所だから、空間も夢のあるもの、見たことがない建物が欲しい」と熱く語ったそうです。
当時、中山氏は大学院を出て3年目。
そこから5年、プランニングから施工、規制や予算など、さまざまな課題を乗り越え、最後までやりきりました。
丹下都市建築設計会長 丹下憲孝氏
モード学園創始者 谷まさる氏
モード学園の学長であり創始者でもある谷まさる氏は、1936(昭和11)年名古屋市生まれです。
ファッション系専門学校「モード学園」、ITデジタルコンテンツ系専門学校「HAL」、医療福祉系専門学校「首都医校」「医専」の学長であり、今でも1週間に9校をまわり、全学生に「自己開発」を指導しておられます。
1966(昭和41)年に、ファッション系の専門学校「名古屋モード学園」開校しました。
以後、同大阪校、同東京校を開校し、1995(平成7)年にパリ校「クレアポール」を開校しており、国内外問わず活躍されています。
また、IT・デジタルコンテンツ系の専門学校「HAL」や、医療・福祉系専門学校「首都医校」「医専」を東京・名古屋・大阪に設立しました。
「社会が求める人材育成」に努めておられます。
教育理念は「環境が人を育てる」「創造力は誰にでもある」です。
これらの教育理念に基づき、“自己開発”の授業を通じて50年以上、若い学生と向き合ってこられました。
創造力とは持って生まれたセンスや才能ではないことを実証すべく、学生に創造力をつけて世に送り出す活動を続けています。
ファッション、IT・デジタルコンテンツ、医療・福祉などの専門学校を経営する中、教育の分野一筋に、一貫して「人間の育成」に力を注いでおられます。
このような情熱的な方が生徒のために欲した、どこにもない新しい建物がコクーンタワーです。
ちなみにですが、名古屋のモード学園の建物もすごいです。
モード学園スパイラルタワーズと呼ばれています。
モード学園スパイラルタワーズ
学校という建物を設計するにあたり、丹下都市建築設計が大切に考えていることがあったそうです。
それは、学校なので授業は大切であることはもちろんですが、それ以上に大切なのは休憩時間や放課後の時間という考えです。
キャンパスで、ディスカッションや雑談をしたり、先生に相談したり、恋愛があったりと、何かが起こることが大切で、だから学生も学校に来る意味があります。
しかし高層建築の場合、ひとつ上や下の階では何が起こっているかわかりません。
でも学校はどこの教室にも自由に行けることと、何が起こっているかわかることが大切です。
昔の小中学校は、たいていの建物が3階建てでした。
よくある学校
そのためコクーンタワーでは、高層ビルですが内部は3階建ての校舎を積み上げる設計になっています。
高層建築では途絶えがちな上下階とのコミュニケーションを図るために、3層吹き抜け空間を3階ごとに3方向に配置し、さらに校庭のように他校や他学科の学生とも交流できる「学生サロン」を設けています。
学生サロン
学校とは学び舎であると同時に、キャンパスライフを謳歌する場所でもあります。
しかし、そこで立ちはだかるのが広さの問題です。
都心の場合、そう広い敷地を望むことはできません。
現に、都心の小中高校では、かなり狭い敷地面積での学校生活を強いられます。
体育館やグラウンドが校舎のそばにないということもザラです。
そうなると、高層ビルの場合は、高さでカバーするしかないということになります。
とはいえ、もともとの基準では、建物の容積は敷地の1,000%でした。
しかし教室はたくさん欲しい。キャンパス空間も欲しい・・・。
そうなると、上へ伸ばしていくしか方法がありません。
ここで考えられたのが、「容積を増やす」というプランです。
しかし、容積も敷地の1,300%、1,500%と増やし、さらに高さを稼ぐためには、規制を緩和してもらう必要があります。
そこで彼らは東京都へ赴き、容積率の緩和を願い出ました。
新宿の地下街とつながること。
卵のような低層ホールを学生以外の東京都民にも貸し出すこと。
コージェネレーションシステムを採用することなど。
社会貢献や環境にも配慮した建物であることを訴えかけました。
さらに、学生という若いエネルギーが集まることによる街の活性化など、今一度都市のあり方、街のあり方を提案したのです。
それで最終的に1,370%の特区認定が下り、容積率、及び高さを確保することができたのだそうです。
コクーンタワーは繭のような形になっているのが特徴の1つですが、要は下と上が狭く、中心に近づくにつれフロアが広くなるという、非常に斬新な建物となっています。
外観
そしてこの斬新な繭のような設計になった理由は、
「環境が人を育てる」という教育理念のもと、”創造する学生を包み込み、触発させる”空間から、
“学生がプロとして羽ばたいていく”ことをイメージして、「繭=コクーン(COCOON)」がモチーフになったそうです。
さらに、
「この建物はなんて個性的なんだ」
「ここではひと味違ったことが学べそう」
など、コクーンタワーを見て興味を持った人に入学してほしいという思いもあり、他には類を見ないデザインになっています。
このように、この建物の着想は、全てが学生や日本の未来のために考え抜かれて設計されているということです。
またコクーンタワーは、学校建築としては日本一の高さを誇ります。
さて、この建物、外観から見ると、繭のように白い網目が特徴的ですが、この網目、中にいる人間には気にならないのでしょうか?
圧迫感があるような気もします。
この網目は、斜め格子状の白いアルミパネルと、ガラス面に貼られた白いライン状の特殊フィルムが組み合わさって、繭のような幾何学模様を生み出しています。
しかしながら、教室内部から見た時には圧迫感のないよう、特殊フィルムで形成された白いラインはドットで描かれています。
さらに、外壁は球状となっているため、窓のカタチが一つ一つ異なります。
校舎を全面ガラスで覆うことで、開放感にあふれた教室になっています。
内部1
内部2
内部3
エントランスホール(案内カウンター)も「繭」をモチーフにしたデザインで、未来感あふれる”創造空間の顔”となっています。
エントランスホール
コクーンタワーに関して設計者がめざしたのは、斬新で美しいけれど、構造的には安定性を兼ね備えているフォルムだそうです。
そのためまず足元を絞り込みました。
そうすることにより、狭い敷地であっても緑を増やすことができます。
足元部分
一方、教室はたくさん必要なので、真ん中は膨らませてあります。
最上階までそのまま膨らんだ状態だと、空と建物のシルエットが美しくないので、もう一度絞られています。
安定性だけを求めると長方形の建築がよいのですが、そのバランスはとても難しいのです。
どのくらい絞るのがベストのバランスを生むのか、プログラム的にも、構造力学的にも、さまざまな検討を重ねたそうです。
結果として今の形状になりましたが、竣工後に東日本大震災が発生しました。
新宿界隈もかなり揺れました。
ゆっくりした揺れでしたが、ゆっくりの揺れほど高層ビルはよく揺れるのです。
しかし、コクーンタワー』はほとんど揺れませんでした。
それは、長周期地震に関してのシミュレーションもしっかり行い、耐震・免振性にも優れた設計を行った結果によるものです。
またコクーンタワーの横には、繭玉をイメージした低層部があり、ふたつのホールが入っています。
コクーンホールA・Bと呼ばれています。
こちらでは、講義だけでなく、ファッションショーや試写会、企業の製品発表会などが行えるようになっています。
コクーンホール外観
コクーンホール内部
以前、ポール・スミス氏を招いた特別講義や、ティム・バートン監督や木村カエラさんらを迎えて新作映画の公開を記念したファッションショーなども開催されたようです。
建築とはある意味、予算との闘いと言えます。
モード学園コクーンタワーも例外ではないでしょう。
デザインを実現させるのはとても大変だったそうです。
教室も200以上あって、しかもこの学園は専門学校のため、半分以上が特殊教室です。
部屋のデザインは全部違います。
さらにこの建物の断面は楕円形です。
各階の高さを同じにすると、外装の長さが全て違ってきます。
各階オーダーサイズになると、予算は膨大に膨れあがります。
そこで、限りある予算で実現するために、外装のサイズは同じにして、各階の高さを調整すればいいのではないかと、発想を転換したのです。
階高を変えるのは内装の仕上げの違いだけなので、そう費用はかさみません。
そのため、実はこの建物は各階高さが微妙に違うのです。
階段1段の高さも微妙に違います。
とはいえ、そんな建物の施工は想像を絶する手間と苦労がともないます。
丹下都市建築設計は、何社もの建設会社に声をかけたそうです。
モード学園学長の、どこにもない建物が欲しいという想い。
都市の一部として機能する建物を造りたいという、設計事務所の想い。
そして、それらをなんとかカタチにしようという、建設会社や協力企業の想い。
そんな人々の熱い想いが、不可能と思えることも可能へと動かしていったのではないかと思います。
その想いは都市のランドマークというカタチで、今や西新宿を代表する建物としてアーバンデザインの一部を担っています。
現在、この建物に入居しているのは、
・東京モード学園
・HAL東京
・首都医校
・東京通信大学
・国際ファッション専門職大学
・東京国際工科専門職大学
そして、
・ブックファースト
・セブンイレブン
・タリーズコーヒー
です。
HAL東京のCM画像
さて、冒頭でお話した、内部に入る方法ですが、勘づいた方もいらっしゃるかもしれませんね。
そうです。
「オープンキャンパス」です。
専門学校や大学は、オープンキャンパスを毎年行います。
学ぶことに年齢制限はありません。
上述した学校で、気になる分野の学校のオープンキャンパスに申し込めば、普通に内部に入れます。
そして、在校生さんたちの話も聞くことができます。
個人的なおすすめはHAL東京です。
オープンキャンパスの募集要項に、学生でも社会人でも留学生でも、興味がある方なら誰でも来てくださいと書いてありますから。
ゲームやコンピューター、デザイン関係の専門学校なので、オープンキャンパスでの体験も非常に面白いものだと思います。
また、地下階のブックファーストは非常に大きな本屋なので、普通に本屋に行って、1階のタリーズコーヒーでコーヒーを飲みながら本を読むだけでも、建物の感じはなんとなく感じられると思います。
地下階は新宿駅や新宿の地下街ともつながっているため、アクセスは抜群に良いです。
ブックファースト新宿店
ともあれ、近未来的な構造で未来に羽ばたく学生たちの学びの場である『モード学園コクーンタワー』。
ぜひ一度見てみることをおすすめします。
見たことがあるという方も、設計者や学長の想いなどを知りもう一度見てみると、また何か違う見え方になるかもしれません。
夜間に通う学生さんもいるため、この建物は夜になっても灯りがともっています。
暗い夜空に浮かぶ白い繭はけっこう幻想的なので、夜のコクーンタワーを見るのもいいでしょう。
夜のコクーンタワー