東京ジャーミイ

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東京都渋谷区、代々木上原駅にほど近い場所に『東京ジャーミイ』という建物があります。

「ジャーミイ」とは「モスク」の正式名称で、イスラーム寺院のことです。
トルコ語では金曜礼拝を含む1日5回の礼拝が行われる大規模なモスクをあらわし、「人の集まる場所」を意味するアラビア語が語源とされています。
ただし、モスクの中には一部の例外となるものを除いて崇拝の対象物はなく、あくまで礼拝を行うための場です。

礼拝

『東京ジャーミイ』はオスマン様式によるモスクを特徴とします。
また、前身である東京回教学院以来、東京モスク、代々木モスクなどとも呼び馴らされています。

オスマン様式モスク

イスラム教の成立年は610年で、唯一絶対の神アッラーを信仰し、神が最後の預言者を通じて人々に啓示したとされる「クルアーン」を啓典としています。
漢字圏においては、回教(かいきょう)または回々教(フイフイきょう)と呼ばれます。

ユダヤ教やキリスト教と同じ一神教で、神への奉仕を重んじるとともに、全ての信徒が「ウンマ」と呼ばれる信仰共同体に属すると考えて、信徒同士の相互扶助関係や一体感を重んじる点に大きな特色があります。

一般には法律と見なされる領域まで教義で定義しており、信者の内心が問われず、正しい行いをしているか天国に行けるかは神が決めることとされます。
死ぬまでは人間の間で問題にされないなどの点で、仏教やキリスト教徒は大きく異なります。

イスラム教の特徴として、偶像崇拝の禁止が徹底されています。
イスラームは神の唯一性を重視するため、預言者の姿を描く絵画的表現は許されません。
(例えばですが、キリスト教だとマリア像やイエスキリスト像等ありますが、イスラム教にはそういったものがありません。)

そのため、ムスリム(イスラム教徒)が礼拝をおこなうモスクには、他宗教の寺院や聖堂とは異なり、内部には宗教シンボルや聖像など偶像になりうる可能性があるものは存在しません。
ただ広い空間に絨毯やござが敷き詰められているだけで、人々はそこで、聖殿「カアバ」があるメッカの方角を向いて祈ります。

カアバ

メッカ

モスクには、メッカの方角の壁に「ミフラーブ」と呼ばれるアーチ状のくぼみがあり、ムスリムはそれによってメッカの方向を知ります。
写本絵画などにおいては、預言者ムハンマドの顔には白布をかけて表現されることが多いのですが、これも偶像崇拝を禁止するイスラームの教義に由来しています。

ミフラーブ

今日では、ムスリムは世界のいたるところでみられます。
2010(平成22)年時点で16億人の信徒があると推定されており、キリスト教に次いで世界で2番目に多くの信者を持つ宗教とされています。

ムスリムが居住する地域は現在ではほぼ世界中に広がっていますが、そのうち西アジア・北アフリカ・中央アジア・南アジア・東南アジアが最もムスリムの多い地域とされます。
特にイスラム教圏の伝統的な中心である西アジア・中東諸国では、国民の大多数がムスリムであり、中にはイスラム教を国教と定めている国もあります。

世界のムスリム人口は、多子化やアフリカ内陸部などでの布教の浸透によって、現在も拡大を続けているとされています。
また、移民として欧米諸国など他宗教が多数派を占める地域への浸透も広まっており、イギリスではすでに国内第2位の信者数を有する宗教とされているようです。

日本人ムスリムの総数は、大規模な調査が行われていないこともあり、はっきりしていません。
過去に行われた調査では、数千~数万程度のばらつきのある数字が提示されているため、最大に見積もっても信徒数は5万名に届かないのではないかと推測されています。
文化庁の宗教年鑑でも、イスラム教は、神道・仏教・キリスト教以外の「諸教の諸教団」に天理教などと共に含まれ、詳細な調査はほぼ行われていないそうです。

さて次に、『東京ジャーミイ』の歴史に関してです。
1917(大正6)年にロシア革命が起こると、ロシア帝国に住んでいた回教徒・トルコ民族の多くは国外に避難しました。
特にザバイカル州及び満州在住の回教徒商人ら約600人は、日本に移住してきました。

ロシア革命

そのうち約200人は東京周辺に居住し、タタール族の僧正クルバンガリーらが1924(大正13)年に「東京回教徒団」を結成します。
同団ははじめ、千駄ヶ谷会館を礼拝所として使用していましたが、1931(昭和6)年になると会堂の建設が決定されました。

僧正を会長として新たに「日本在住教徒連盟会」が結成され、日本人有志らから10万円の寄付が集ったことから、現在地(渋谷区富ヶ谷)に礼拝堂が建設され、1938(昭和13)年5月12日には落成式が行われました。

この礼拝堂の建設の背景には、日本政府の国策としてのアメリカ、イギリスといったキリスト教国との戦争に備えた対イスラム宣撫政策があり、建築資金は日本側の寄付によって賄われました。

さらに、落成式には頭山満、松井石根、山本英輔といった、陸海軍有力者が参列しました。
これが『東京ジャーミイ』の始まりであり、開設後のイマーム(指導者)には、国際的に知られたウラマー(学識者)、アブデュルレシト・イブラヒムが就任しました。
この初代礼拝堂(代々木モスク)は木造建築でした。

頭山満

代々木モスクは、在東京のトルコ国籍ムスリムたちや、地元代々木上原・大山町の人々に親しまれてきましたが、老朽化のため1984(昭和59)年に閉鎖され、1986(昭和61)年に取り壊されました。

東京トルコ人協会はモスクの再建にあたって、トルコ政府に跡地を寄付し、再建も委託しました。

トルコでは、同国の宗教行政を主務するトルコ共和国宗務庁が中心となって「東京ジャーミイ建設基金」を設立し、トルコ全土から多額の寄付を募ったほか、モスクの建築資材や、内装・外装の仕上げを手がける職人を派遣しました。

1998(平成10)年6月30日に着工した『東京ジャーミイ』は、2年後に竣工、2000(平成12)年6月30日に開堂しました。
以来、「東京ジャーミイ・トルコ文化センター」として、モスクとしての活動とともに、イスラム文化・トルコ文化を伝えるセンターの役割も果たしています。

外観1

『東京ジャーミイ』は、建物の上階に礼拝堂を設け、大ドームを乗せた広大な空間を確保する、トルコでは非常によくみられる形式を踏襲しています。
設計は、トルコで建築会社代表を務めるハッレム・ヒリミ・シェナルプです。

外観2

遠景

建物の躯体工事は鹿島建設が行いましたが、内装や外装の大部分にはトルコから送られた資材が用いられ、100人近いトルコ人の建築家や職人によって仕上げられました。

1階にはトルコの美術品が展示され、講座などに使われる広間があります。
2階の礼拝堂には最大2,000人収容可能で、女性用の礼拝室もあり、専従のイマームもいるなど、日本最大のモスクとなっています。
敷地面積は734平方メートル、建物床面積は1,693平方メートルです。

東アジアで最も美しいモスクといわれています。

トルコのエルドアン大統領が2015(平成27)年に訪日した際、到着後真っ先に訪れた場所がこの『東京ジャーミイ』でした。
いまや日本だけでなく、世界のムスリムの方々に注目されているモスクとなっています。

1階奥の階段からモスクがある上階へ。
階段をのぼると2階がバルコニーになっていて、その先にモスクの入り口があります。

玄関

礼拝堂の屋根は大小のドームが支えあっていて、屋根を支える柱がなく、とても広い空間になっています。
壁一面には色鮮やかで美しいステンドグラスや流麗なカリグラフィが、天井や壁には幾何学模様や植物文様が描かれ、トルコ・イスラームの世界を作り出しています。
その美しさは、時間を忘れて見入ってしまうほどです。

正面中央部の窪んだ部分はミフラーブです。
聖地であるメッカの方角を示していて、大きなろうそくが置かれているのが特徴です。

礼拝堂とミフラーブ

礼拝堂天井

礼拝堂内部

モスクは女性と男性で礼拝場所がわかれています。
『東京ジャーミイ』の場合、2階(モスク内の1階)が男性・女性共用、3階が女性専用です。
女性専用の礼拝場所のほうが、美しいドーム天井やステンドグラスを、より間近で見ることができます。

女性用礼拝場所

礼拝堂以外にも、トルコの様式がふんだんに取り入れられています。

1階入り口付近にある応接間は、一般的なトルコ民家の応接間を再現しています。
中央には白亜の噴水があり、奥にある暖炉はチューリップをあしらったトルコならではの装飾タイルでできています。
チューリップといえばオランダを思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実はトルコ原産の花です。
1本の茎に1輪のみ花を咲かせることやその名前の綴りなどから、イスラム教を象徴する花ともいわれて宗教的なシンボルとされ、『東京ジャーミイ』内の装飾にも用いられています。

礼拝堂ではよく飲み物とナツメヤシなどがふるまわれるのですが、それらをいただきながらソファーで談笑するのがトルコスタイルなのだそうです。

応接間

暖炉と噴水

また、1階にある多目的ホールの一角には、イスラムに関するさまざまな書籍と、それを読むスペースも用意されています。
有名な啓典であるコーラン(クルアーン)の写本が飾られているなど、貴重な資料も多数あります。

多目的ホール

『東京ジャーミイ』は礼拝堂兼文化センターの側面を持っているため、見学はムスリムでなくとも可能です。
特に予約は不要ですが、5名以上の場合はガイド付きの見学ツアーができるようなので、その際は予約をしたほうがよいでしょう。

見学の際の注意点ですが、まず、女性は肌の露出を極力避けましょう。

イスラム教では、女性は守られるべき存在であり、肌の露出はするべきでないとされています。
たとえイスラム教徒でないとしても、過度な露出は避けましょう。
また、女性が礼拝堂に入る際は、髪にスカーフを巻かなくてはいけません。
貸し出しがありますが、気になる方は持参したほうが良いでしょう。

礼拝堂を含め、全ての場所で撮影が許されています。
しかし、礼拝中だけは撮影を控えましょう。
また、いくら近くで見たくても、礼拝している人の前を横切ることはNGです。
あくまでもムスリムのための礼拝堂だということを心に留めて見学してください。

訪れる際はマナーを守って、東アジアで最も美しいモスク見学を楽しんでくださいね。

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